ぼっちな彼女と色魔な幽霊

「つうか転びそうになったお前には言われたくない。まあいい。そう、にけつしてて、転んだんだよな」

「彼女と?」

「前が俺だったから、後ろに誰がいたかわかんないけど。なんか後ろの奴がふざけてて……そのせいでこけた。うん、でも大事な人だった気はするな」と黙る。やっぱりはっきりしていないらしい。

こういうのをあと何回やっていけば、相手の顔を思い出すきっかけが作れるんだろうか。

あのデッサンの絵みたいに、幾重もの線が、形になっていくなんてことあるのだろうか。

坂を上りきると、ヨウはわたしの今までの忠告を完璧に無視する形でサドルにまたがって自転車をこぎだした。

「あー!だからダメだってば、心霊現象!ていうか、わたしを置いていかないでよ!」と、並走する。

だけど止まる気配もなく、「ほら、がんばれひな子」と、ボクサーのトレーニングみたいにわたしを走らせた。

自転車こがなくても楽に帰れるくせに。

「風が気持ちいいなー」

「全然!」

ああ本当に、意地悪な幽霊め!
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