神様の敷いたレール
「てか、なんで俺を知っているのですか?」

「なんでって水月の中に私が入っているから」

「私?」

「モモよ、天宮モモ」

呆れた顔で言う【モモ】。

「えっモモと入れ替わっているの?」

「だからそう言ってるじゃん」

「なんだモモか。」

少しだけ恐怖が和らぐ。

でもモモを怒らせないようにしよう。

そう胸に固く誓った。

「それにしても水月ってすごいよね。男子も女子もいろんな人話しかけて来るんだもん。なりすますの大変で疲れちゃったよ。」

気のせいか話すモモの顔はどこか悲しげな顔をしていた。

「それはお前の方だろう。嫌味ですか。」

「私は周りに合わせているだけだから。常に自分でいる水月の凄さが入れ替わって改めて実感されたよ」

「別にすごくねーよ。それに人に合わせるくらいのことはしてる」

そう別にすごいことは何もない。

俺は人より感情がない。

喜びも、悲しみも、楽しみも、苦しみもないとは言わないが人より劣っている。

ただ毎日同じことの繰り返しで何の変哲もない毎日。

ほしいときにほしい言葉を送り、ほしいときにほしがっている行動をする。

そんな上っ面だけ分厚く塗り固められ、中身が空っぽの存在がみんなの知っている『麻倉水月』。

みんなの求めている『麻倉水月』を演じるだけの人生。

そんな薄っぺらいこの俺が哀れまれることはあれど褒められることなど何ひとつもない。
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