優しい嘘はいらない
よしよしと志乃の頭を撫でる佐藤さんはとても楽しそう。
志乃は志乃で佐藤さんに見えないようにベーと舌を出している。
こんの…志乃め。
「杏奈ちゃん、志乃ちゃんいじめたらダメだよ」
いじめてません。
志乃から佐藤さんに睨みをきかせた。
「なんだ…その顔は?かわいい顔が台無しだ。ほら笑え」
五十嵐さんの親指と人差し指が私の両頬を押さえ持ち上げる。
その行為にも驚いたが、その前に聞いた言葉に耳を疑いたくなった。
かわいい⁈
ブッと吹き出す五十嵐さん。
「真に受けるな」
からかわれたのだ…
頬を膨らませむくれる私の頬を五十嵐さんの指がプニプニと弄ぶ。
「もう、ヤダ…帰る」
五十嵐さんの手を払いのけ、強引にテーブルと五十嵐さんの長い足の間を抜けようとしたが、手を引っ張られて元の場所に戻された。
「…何するのよ」
「カッカするな。だからガキなんだよ」
ムカッ…ときて、目の前にいる志乃と佐藤さんを見ると苦笑している。
「大人扱いして欲しいなら、おとなしく座っていろ」
頭をポンポン叩きなだめる仕草と彼の笑顔に借りてきた猫のようにおとなしくなる私は、彼の微笑みにノックアウト寸前だった。