優しい嘘はいらない
彼の腕にとらわれ、顔を見合わせたまま胸が密着している。
どうか、このドキドキが伝わりませんように…
そう願いながらも、誘うように艶めかしい目つきで笑っている彼に見つめられるとゴクッと喉がなる…
その瞬間を見逃さなかった彼は、私の背筋に指先を滑らせた。
あっ…
彼の腕にとらわれいるから逃げ場のない背は丸くなり腰が前に突き出ると、いやでもわかる生々しい感触に彼の目を見ることができず目を彷徨わせしまう。
フッと笑う声に、彼からの挑発なのだとわかった。
もう、こうなったら意地でも言わないと決めたのに…
彼はいつまでたっても疼いた体を指先で弄び、欲情を煽るだけで私を満たしてくれない。
「杏奈…の中に早く入りたい」
ゾワっとくる魅惑的な甘い声は、私の意志を最も簡単に変えさせていく。
「そんなの卑怯よ」
なにがって?
それは、私からキスを求めないと彼は体を繋げてくれない。
それを、一夜で覚え込まされた体は自然と彼の首に腕を絡め、目を閉じると触れるキスをして彼がキスを深めてくるのを待った。
「違うだろう…目を開けて俺を見ろ」
唇の上で話す声にドキッとして瞼を開け彼を見つめた。