優しい嘘はいらない
「えっ…」
耳を疑った。
数秒前までの甘い時間はなんだったのだろう?
私をベットに残して彼はさっさと服を着だすと、私の服をベットの端に置いてから髪をクシャっと撫でていく。
「リビングにいるから着替えたら声をかけろよ」
そう言って寝室から出ていく後ろ姿を見送った。
振り返らない彼は、頬を伝う涙に気づかない。
どうして、涙が出るのか?
しばらくして涙を拭うと、急いで服を着た私はベットの乱れを直した。
それは、私なりの細やかな抵抗なのかもしれない。
そして、彼に気づかれないようにそっと出たつもりだったのに、気配を感じた彼に玄関先で捕まる。
「1人で帰るつもりか?」
「……まだ、明るい時間だし送ってもらわなくても……『送る』」
大丈夫という言葉を言う前に、彼は靴を履き私の手を掴むと玄関のドアを閉めていた。
そのまま手を繋いで駐車場に向かうと、以前にも見た彼の車が止まっていて、助手席側からロックを外しドアを開けた彼は私に乗るように首を振る。
そこまでされたら、乗るしかない。
初めての助手席に緊張で体が強張っていたら、運転席から彼の手が伸びてきて、一段と緊張が走る。
「…シートベルト忘れてる」