優しい嘘はいらない
またねとも
さようならとも言えない…から
「…ありがとう」
彼の冷たい態度と表情に、貼りつけた笑顔が崩れそうになり‥急いで助手席のドアを開け降りようとした私の腕を掴んだ彼。
「…なに?」
「ずいぶんあっさりと…いや、なんでもない」
「そう…」
「……」
不意打ちで腕を引っ張られ、彼の肩に寄り添う私がバックミラーに写っていて鏡越しに彼と視線が合い、潤んでいる瞳を見られてしまった。
タバコを咥えたまま目を細め、意味深に笑った彼は私の首筋を撫でていくと、体は、まだ彼の愛撫を覚ええていて、産毛まで逆立つ感じに身ぶるいがする。
「……んっ‥」
「ふっ‥」
満足気に笑う彼を鏡越しに睨んでいたら、掴んでいた腕を離して彼は私の頭部をワシャワシャと撫でた。
「今度まで俺を忘れるなよ」
意味あり気な甘い言葉を囁きながら、子供扱いする彼の言動に戸惑う私は、乱れた髪を手ぐしでなおしながら呟く。
「……今度ってあるの?」
「……」
なにも答えてくれずに頭をポンと叩いて、顎で降りろと指図する憎らしいく愛しい男は、口元に笑みを浮かべるだけ…
下唇をキュッと噛んで私は無言で車から降りた。