優しい嘘はいらない

ドアを閉めると同時に車が行ってしまう。

その後ろ姿を見送りもしないでアパートの階段を駆け上がり、部屋に入るとその場で泣き崩れていた。

この涙の理由は

彼に抱かれたことの後悔じゃない。

私の気持ちに気づいていながら、優しさと甘い言葉で期待を持たせるのに、近づこうとすると急に冷たい態度に変わり、一線を引き近寄りがたくなる…そして、私が距離を取ろうとするとまた、思わせぶりな言葉と態度で翻弄する。

そんな彼にいいように利用されても、
好きだから…
側にいられるなら…
それでもいいと思ってしまう。

もう、後戻りできない感情が涙になって流れている。

ただ、遠くから見てればよかった。

話せるだけで満足しておけばよかった。

愛しい彼に抱かれてそれで満足するべきだったのに…

彼の心もほしいと欲張りになった。

一晩に何度も私を求めて

甘い言葉を吐き

気のあるそぶりを見せる。

でも、好きだとか

愛してるとは言わない卑怯な男。

あんな男…嫌い。
きらい…きらいよ…

それでも、またあの腕に抱かれ甘い時間を過ごせるならと願ってしまうのは、どんなにきらいと思おうとしても幸せを感じた瞬間が脳裏から消えてくれないから…
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