優しい嘘はいらない
会いたかった人が目の前にいる喜びから、どうして不機嫌なのか疑問にも思わずに抱きついていた。
「来てくれたんだ…」
嬉しさに彼の胸で呟いた。
そんな私を抱きしめ「なんだよ‥それ」と嬉しさを噛み殺した声でつぶやく彼は、更にぎゅっと抱きしめてきて、微かに香るタバコの匂いと彼の匂いが私を包んでいた。
会いたかった思いが伝わるように私もぎゅっと抱きしめ返えした。
「杏奈…」
耳元で呼ぶ掠れた色っぽい声に自然と顔を上げれば、切れ長の目が艶めかしく私を見つめている。
あぁ…この目だ。
そう思った瞬間、彼の首にしがみついて唇に触れた。
荒々しいキスに変わり体がふわりと浮いてドアがバタンと閉まる音が聞こえる。
抱き上げられて、そうするのが当たり前のように彼の体に足を絡めキスを続ける。
お互いの唇を貪るように…
そして、入ってすぐのキッチン台の上に私の腰を下ろし離れていく唇。
どうして…
と彼を見つめる。
「…会いにきただけなのに帰れなくなる」
「それなら…帰らないでよ」
あんなキスしておいて帰るなんてイヤ…
「…会いたかった」
「私も…」
再び、唇を重ね会えなかった時間を埋めるように体を重ねていく。