優しい嘘はいらない
ガチャンとドアが閉まる音で目覚めると隣には誰もいない。
床に脱ぎ散らかした彼のスーツもない…
私にはいらない物なのに、つい買ってしまった灰皿にタバコの吸い殻が2本残っているだけだった。
1本は、彼が私を抱いた後に吸っていたもの。
もう1本はさっきまで彼がそこで吸っていたのだろう…微かにタバコの匂いが残っている。
起こしてくれればよかったのに…
バカ…
会いたかったって言ったくせに、黙って帰るなんて…
あなたにとって私はなに?
週末なのに一緒に過ごせないなんて、都合のいいセフレなのかなぁ?
そんなふうに考えたくないけど、彼との時間はお酒の席かベットの中での時間をしめている。
認めたくない現状に首を振り、重い体を起こしてシャワーを浴びに浴室へ行くと鏡に映る自分を見てまた感違いを起こす。
体のあちこちに残された赤い痕に頬が緩んでいる私がそこにいて…キスマークが残るこの体は彼のものだと言われているようで嬉しくなり、肌にくちづける彼の唇が蘇り、体がジンと疼く。
虚しくなるだけだとわかっていながら、熱を孕んだ体に熱いシャワーをかけ彼の熱を思い出し
五十嵐さん…
そして、いつまた会えるかもわからない彼の名を呼ぶ。