優しい嘘はいらない
ドキドキしてめまいがしそう。
テーブルの下で繋がれた指を一本、一本外しにかかるのに、すぐにかぶせてくる彼の指との攻防戦。
こっちは必死なのに、余裕顏で志乃達と会話を楽しんでいる五十嵐さんをチラッと見れば、視線が合った瞬間に口角を上げ意地悪く笑っている。
絶対、遊ばれている…
口に出して拒絶すれば離してくれるはず。そう思うのに、彼の男らしい太い指が逃げる私の指を追いかけてくれるのが嬉しくて…その時間を楽しんでいる私がいて、この繋がれた手の意味がわからなくて…
もう、なんなの?
隣の男は澄まし顔で談笑中。
私は、会話どころじゃない。
もう、
もう‥
昔、好きだった人が隣にいるってだけでドキドキするのに、こうして手を繋いで
いる事にドキドキして自分とは違う体温に触れているっていう現実に、思考が追いつかず逃げ出したいのに逃がしてくれない。
「へぇ〜、同じ電車に乗ってたんだ⁈」
電車ってキーワードに会話が耳に入ってくるようになった。
「道理で、どこかで会ったことがあるって思ってたんだよなぁ。確か、同じ駅を利用してなかったか?」
「はい、そうなんです。よく覚えてますね」