優しい嘘はいらない
「久しぶりに杏奈と飲みたいと思って…」
「ふーん…佐藤さんはよかったの?」
「…うん、帰りは迎えにくる約束付きでオッケーもらった」
「あっ、そ…」
頬を染めて嬉しそうに笑う志乃が悪いわけじゃないのに私が不機嫌に呟くと、驚きつつ何かを察したように私の肩にポンと手を置いた。
「……ご機嫌が悪い訳聞こうか?」
志乃の優しい声に、ウルウルと涙が瞼に溜まっていく。
おかしいな?
さっきは涙も出なかったのに…
涙を拭っているとビールとチーズの盛り合わせが目の前に置かれ、冷たいおしぼりをそっと置いていく。
私が泣いている事に気づいていながら気づかないふりをして、他のお客さんの接客にあたるオーナーにもウルっときてしまい、熱くなった瞼をおしぼりで押さえ、熱を冷ましながら今日までの出来事を話しだした。
うんうんと頷きながら黙って聞いてくれる。
「それで今日ね…」
ポンと突然、肩に置かれた手に驚く私の背後を大きな目をして見ている志乃の表情が変わる。
「優也達も飲みにきたの?」
達?
肩に手を置く人物を覗き見ると、会いたかったけど…今は会いたくなかった人だった。
「…五十嵐さん、どうして?」