優しい嘘はいらない

心でそう思っても言えないのは、私達の関係が曖昧だからだろうか?

「本当に驚いただけで、怒ってないよ」

「なら、よかった」

私の複雑な心境なんて知らない彼は、私の頭部を撫でると椅子の背に手をかけた。

そこには、私の荷物が…

とっさに買い物袋を隠すように足元に下ろした。

「1人で買い物してたのか?」

椅子に座ると片眉を上げて疑い気に視線を合わせてくる。

「…うん」

へーと言いながら彼の視線は足元に移るから、私は足を組んでそれを隠し彼にメニューを勧め、パラパラとメニューを見ている彼の横で私の心臓は落ち着きなくなぜが速く脈をうっている。

私はやましいことなんてないのに、どうしてこんなに緊張しているの?やましいことがあるのは彼の方なのに…涼しい顔をしてメニューを見ている彼の頬を張り倒したい心境をグッとこらえていた。

彼女といる現場を見たって言ったらあなたのその涼しい顔はどう変わるのかな?

きっと、あなたのことだから表情も変えないで冷たい言葉で終わらせるのかもしれないわね…

想像だけで答えが出てフッと笑いが漏れていた。

「なに、泣いてるんだ?」

無意識のうちに泣いていた私の涙を拭い、彼の手を振り払ってしまった。
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