優しい嘘はいらない
『…駅だな…そこにいろよ』
「無理だよ。もう、改札くぐっちゃった…私ね…今日、見ちゃったんだ。五十嵐さんと女の人がいるところ…」
電話の向こうで言葉を詰まらせていた。
「ジュエリーショップから仲良く出てきたよね……『それは』もう、五十嵐さんとは会わない。さようなら」
捲したてるように早口で言い切って、耳からスマホを離し電源を切るまで、五十嵐さんの声がしていたけど何を言っているのか聞かずに切った私は、頬を伝う涙を拭い、今度は本当に改札をくぐるために歩いていた。
電車に揺られ、久しぶりに降りた駅はあの頃と何も変わらない。
喫煙所もあの頃のままで…
年配の男性が1人タバコを吸っていた。
あそこの席、いつも五十嵐さんの定位置だったんだよね…
初めて彼を見た時、タバコを吸う姿がかっこよくて目が離せなかった。
今思えば、あの時一目惚れして…いつの間か彼を追いかけて同じ車両に乗るようになったんだ。
あの頃のように見ているだけにしておくべきだったのに…親しくなれた事に浮かれて近すぎてしまった。
エッチしたからって彼女になれたわけじゃないのに、勝手に五十嵐さんも私と同じ気持ちだと感違いしてただけで…