優しい嘘はいらない

それを今日思い知らされただけの話。

下唇をぎゅっと噛み、喫煙所の前を通り過ぎた。

歩いて15分ほどの距離をテクテクと歩いて実家にたどり着いて、ドアノブを回すとガチャンと開くから、そのまま玄関へ入っていく。

「ただいま‥」

「……え、おかえり。突然どうしたの?」

私の声に母が反応して出てきたけど、あまり感激されてない様子。

「うん、ちょっと一人暮らしが寂しくなってきちゃった」

「そうなの…それなら連絡くれればいいのに突然くるから驚いたじゃない」

「ごめん」

「ほら、入りなさい。寒かったでしょう⁈お風呂はいるわよね」

「…うん、ありがとう」

全く、この子ったらこっちの都合も考えないで…

ブツブツ文句を言いながらも、浴室に向かっていく母。

私は、階段を上がり自分の部屋のドアを開けようとすると、奥の部屋のドアが開いて弟が顔を出した。

「姉ちゃん、おかえり…」

「ただいま」

しばしの沈黙

「…志乃ねえから連絡きたよ。電話の電源切って実家帰って来るなんて男絡みか⁈」

「うるさい。受験生なら余計な詮索してないで勉強しなさいよ」

図星を突かれ八つ当たりだ。

「へーへー、志乃ねえに連絡しろよ」
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