優しい嘘はいらない
バタンとドアを閉めて鞄からスマホを取り出し電源を入れてみる。
暗闇の中で明るく光る画面に沢山の履歴の件数が表示され、それは志乃と五十嵐さんからのものでメッセージも残されていた。
でも、そのメッセージを聞く勇気もなくて消去してしまった。
ごめん…
そして、再び電源を切って鞄にしまうとベットにストンと座った。
もう会わない…
今日見た女の人が五十嵐さんの彼女でもそうでなくても関係ないんだと気づいてしまったんだもの。
五十嵐さんように素敵な男性の隣を歩く人は、大人の綺麗な女性じゃないといけない。
私みたいな女は不釣り合いだと…
こんな背の低い子供みたいな童顔の私が、背伸びをしても彼女のような女性にはなれない。
彼だって、私みたいなタイプが物珍しくてただちょっかいをかけているだけで、いずれ気づいて離れて行くに決まっている。
そうなる前に気づいてよかったんだよ。
そう、1人で納得して解決したのに、湯槽に浸かり体のあちこちに残された赤い痕が目について自然と涙が溢れていた。
拭っても拭っても止まらない。
涙の理由がなんなのかわからないけど、シャワーの音で嗚咽する声を消して泣きじゃくった。