優しい嘘はいらない

五十嵐さんの質問に志乃が答えると、なぜか私を見てクイッと口角を上げ意地悪な顔をした。

「あの頃、かわいい女子高校生がいてさ…絶対、同じ車両に乗り込んできて半径2メートルまで近寄って熱い視線を向けてくる癖に話しかけてこないんだよ。俺が告白されてると今にも泣きそうな顔して見てるんだよ。ずっと気づかないふりしてたんだけど、なんとなくその子にお前似てないか?」

その子が私だと気づいたから…あんな表情をしたのね。

目の前にいる志乃まで、ニヤついて憎らしいったらありゃしない。

「……そういえば、私が乗っていた電車にかっこいいって騒がれてる人がいたんだけど、女の子の告白をことごく冷たい言葉でフルの。私、毎回女の子が告白する度に玉砕する姿がかわいそうで見ていられなかったのよね。五十嵐さんってその時の男性にそっくりなんですけど…本人だったりして」

目を大きく開いて言葉に詰まっている五十嵐さんに、ふん…と鼻息を鳴らしてソッポを向いた。

言い返してやったわ。
あの時の私の純情をからかうなんてひどい。
馬鹿男
見つめるぐらいいいじゃない。
気づかないふりしてたなら最後まで気づかないふりしなさいよ。
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