優しい嘘はいらない

『ふふふ、冷徹男の本心が聞けてよかったわ。杏奈の行きそうな場所はわかってるから後は私にまかせて…五十嵐さんは杏奈からの連絡待ってなさい。その後は五十嵐さん次第だから頑張って…それじゃあね』

ツーツーと一方的に切られたスマホを眺め、片手で頭を抱えた。

やられた…

まだ、杏奈にも言ってないのに誘導に引っかかって言わされた感に落ち込むやら、恥ずかしいやらでその場で立ち尽くしてしまった。

女の性格の悪さに優也の腕の中で真っ赤になっている姿は演技じゃないのかと疑ってしまうが、こういう女じゃないと優也を繋ぎとめれないだろうと思い、いずれ優也が尻にひかれる姿が想像できて、この場にいない奴に笑いかけ年貢の納め時が来たなと話しかけた。

それから、つながらない電話を何度もかけ、見るかどうかもわからないメッセージを送り彼女のアパートの部屋の前まで辿りつく。

部屋は真っ暗で、呼び鈴を鳴らしても応答はない。

どこにいるんだよ…

くそっ…年度末の忙しい時期の休みに出たくもないゴルフコンペに参加してたんだ⁈

できる事なら杏奈とゆっくり過ごしたかったさ…

だけど、彼女の喜ぶ顔が見たくて夜遅くまで練習もして手に入れたんだ。

そして、今日だってずっと杏奈といたかった。
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