優しい嘘はいらない
寝ている彼女の唇にキスをして後ろ髪ひかれながら、この部屋から出たんだ。
ドサッとドアに背をつけてよりかかり来ない彼女を待ち続けていたら、いつの間か寝てしまっていたらしく、車の行き交う騒音に目が覚めた。
目をこすりながら、スマホの時計を確認すると10時を過ぎている。
寝ている俺をこのアパートの住人は変に思わなかったのだろうか?
無理な体勢で寝ていたからか、体のあちこちが痛い。
腰を上げてポキポキと首を鳴らし、背筋を伸ばしていたら階段を登ってくる音がして、見えてきたシルエットに眠気も吹き飛んだ。
「五十嵐さん⁈」
俺がいる事に驚き、ほころぶ笑顔を隠せない彼女はノーメイクに近く化粧っ気がなくても、その可愛い表情に俺は駆け寄り抱きしめていた。
腕の中で少し苦しそうにした彼女は顔を上げ俺の頬に手を添える。
「……冷たい。こんなに冷えて寒かったでしょう?」
彼女とおでこを合わせ俺は意地悪く微笑んだ。
「会わないって言った男に優しくしていいのか?」
「うん……好きなんだもん」
「…バカやろう…俺が先に言うセリフだ‥必死になって繋ぎとめたいと思った女はお前だけだ」
真っ赤になりながら瞳を潤ませた彼女に
俺は照れ臭さを感じてごまかすように囁いた。
「…冷えた体を温めてくれるよなぁ」
真っ赤な顔が更に赤くなり、コクンと頷く彼女の手から鍵を奪うと手を繋いで部屋の鍵を開けた。