優しい嘘はいらない
背を向けている彼にはわからないだろうと顔をしかめべーと舌を出したら、突然、振り向いた彼は一瞬だけ眉間にシワを寄せてから口角を上げ笑った。
「…俺にそんなことする女、お前だけだわ」
そして、私の鼻先を軽く摘んで離す。
私は、痛くもない鼻先をこすりながら仕返しなのかと頬を膨らませてみせた。
「そんな顔してもかわいいとしか思えないなんて、俺って相当お前に惚れてる証拠なんだよな」
数々の女性に冷たい言葉を吐いていた人とは思えない甘いセリフに戸惑い徐々に頬が熱くなってくきて、照れている自分が恥ずかしくて俯いた。
「…今日の五十嵐さん…変だよ」
「そう見えるなら、そうさせているのはお前だからな」
頭をクリャリと撫でまた歩き出した。
えっ…私のせいなの?
訳がわからないまま連れていかれた場所は、昨日、五十嵐さんを見た場所だった。
スッピン同様な事を思い出し、昨日の綺麗な女の人と今の自分の姿の違いにたじろいでいるのに彼は御構い無しに店の前に立った。
「いらっしゃいませ」
ドアマンらしき人物がドアを開けて入るように促すと
奥から女性の店員が頬を染めて出てきた。
「昨日の指輪を見せてもらえます?」