優しい嘘はいらない
「…かしこまりました」
五十嵐さんにとっておきの笑顔を見せた店員は、繋がれた手を見て一瞬だけ驚いた表情を浮かべたが、そこはプロなのか再び笑顔に戻っていた。
ふかふかのソファで落ち着きなく待っていると、目の前に並んだいくつかのペアリング。
「お前はどれがいい?」
「えっ、私?」
他人事のように見ていた私の頭を五十嵐さんは軽く小突く。
「ボーとしてるなよ。お前の気に入ったのがあればそれに決めていいから選べ」
えっ、えー
驚いた表情の私に苦笑した彼は、1組のペアリングの片方を私の右手の薬指にリングをはめた。
「これなんてどうだ?」
そして、自分の右手の薬指に相方のリングを通して手をかざして見せてくれる。
2人の右手が隣り合い、少し太めでワンポイントに石が入ってキラキラと光っているホワイトゴールドの指輪に見惚れていた。
「ステキ…」
「気に入ったか?」
「うん」
上の空での会話が成立すると、五十嵐さんは店員に頷いていて…
「これにします」
「サイズもぴったりのようですが、そのままつけてかれますか?」
「はい」
五十嵐さんがクレジットカードを出した瞬間、マジなの?と彼を見つめた。