優しい嘘はいらない

「いつからですか?」

「うーん、そうだね…1時間前ぐらいにはいたかな?


カウンターの壁に取り付けてある時計を見たら、9時を回っている。

ということは、8時頃から外にいる事になる。

気がつかないなんて…

いや、気がつくほうがすごいと思うんだけどね。

そんな早くから知っていたなら教えてくれればよかったのにとマスターを恨めしげに見つめても仕方ないとわかっているけど見つめずにはいられない。

「…待たしておけばいいんだよ」

気まずそうに捨てゼリフを吐いたマスターは、作っていたドリンクを運ぶためにカウンターを出て行ってしまう。

そんなわけにいかないよ…

私は、急いで幹事である山城さんに声をかけお店を出ていくと、五十嵐さんは逆ナンにあっていた。

2人組の女子は、両手をポケットに突っ込んだ五十嵐さんの腕に絡み左右からカラオケに行こうと誘ってる最中で、五十嵐さんは私に気づいても無表情で視線だけを向けてきて、何も言わない。

彼らしく、いつものように冷たくあしらえばいいのに何も言わずに私を見つめている。

私は、どうでるべきなの?

普段の私ならきっと、彼を無視して帰ってしまうだろう…
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