優しい嘘はいらない
確かに、彼女らには大人の色気がある。
それでも、彼は私を選んでくれる…そう信じて微笑み冷ややかに呟いた。
「彼は、私の為なら何時間でも寒空の下で待っててくれるわ。それぐらい私の事が好きなのよ。あなた達もそんな彼氏を見つけたら?」
「ふっ、あははは…さすが俺の女」
笑い終えた彼は、私の頬を挟み彼女らに見せつけるようにキスを仕掛けてきて、ア然としている彼女らの前で愛しむように何度も触れた唇を離すと、彼女らは文句を言いだした。
彼女らを視線だけで萎縮させた彼は、私の手からコートを取り肩にかけてくれた後、手を繋いでハザードを点滅させていた車に向かった。
ドアを閉めるまでの間、彼女らの声が聞こえていた気が…でも、今はそれどころじゃない。
「結婚式はどうだった?」
「…うん…素敵だったよ」
車中に響く彼の不機嫌な声のトーンにそう答えるのが精一杯。
「何もなかったか?」
彼が言おうとすることをなんとなく理解して頷くと、口元に笑みを浮かべた彼は車を走らせだした。
走る方向に疑問を持ち彼を見つめると、ポツリと呟く彼。
「少し、遠出する」
ドライブのつもりでいたら、着いた先は庭園の中にある温泉宿だった。