優しい嘘はいらない


「不満なんて…ないよ。もっと愛して」

「愛してやるから、いい加減名前で呼んでくれ」

ほら…言えよと私の唇をなぞる彼の指先。

「きょ…へい」

「杏奈…もう一度」

勇気を出して言ったのに再び催促されてしまう。

「…恭平」

甘くもない強張った声しか出てこないが、彼は嬉しそうに笑うから釣られて私も笑うと、キスしてきた唇が重なった状態で甘い声で囁く。

「愛してるよ」

そして私も囁いた。

「私も…愛…」

してる…

最後の言葉は彼からのキスに飲み込まれてしまったけど…ちゃんと伝わってるらしい。

彼の触れるキスは、今までにないぐらい優しいキスだった。

お互いの気持ちを口に出して照れ笑いする。

彼は何も言わないけど、この時期に宿を取るのに苦労したはずだ。

ペアリングだって本当はクリスマスプレゼントだったろうに、誤解を解くために前倒しでのサプライズだったに違いない。

「幸せ」

指輪を見つめ、嬉しさにポロっと呟いていた。

「俺も幸せって初めて思ったよ」

上部だけの優しい嘘をつく男は信用できないけど、私だけに見せてくれる本来の彼。

性格に難ありだけど、好きになってよかったと彼を
ぎゅっと抱きしめた。
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