優しい嘘はいらない
全く、このタイミングでそれか?
頬を染め恥ずかしい様子で微笑む笑顔に、こっちもつられて照れ臭い。
お互いの唇にたくさんのキスをしてきたのに、なぜ照れているのか?
余裕ある振りして
「…あぁ、待ってるから着替えて来い。それと…このまま連れて帰るから2、3日分の着替えを忘れるなよ」
「…‥うん。急いで準備してくるね」
視線を合わせないまま、頬だけが先ほどより赤くなっている彼女は、耐えきれなくなったのか?喋りながら助手席のドアを開けて出ていく。
何がなんだか?
なぜ恥ずかしがっているのかさっぱりわからん。
階段を駆け上がる杏奈の背を見ていたら彼女の足が止まり、こちらに振り向くと、頬を赤らめたまま‥
『待っててね』
彼女は唇を動かすと、また階段を駆け上がっていった。
なんだ?
この可愛い生き物は?
俺の中のメーターが振り切れる。
ボッと頬が熱くなり、バックミラーに映る自分の姿はとても締まりのない表情だった。
今、1人でよかったと頬を両手で叩いた後、外の冷気で頬の熱を冷ます為に外に出た。
手持ち無沙汰にタバコを吸って待っていると、階段を降りてくる彼女の手には、買い物カゴと小さなキャリーバック。