優しい嘘はいらない
「足元おぼつかない癖に、この部屋に招待したの、あんたよ。ここで飲み直そうって言ったあんたは、自分から隣の部屋に入って着替えておやすみって寝たのよ。信じられなかったわ」
マジですか?
両手で顔を隠し顔面蒼白になっている私は、呆れる志乃に見せる顔がありません。
「……それから……どうしたの?」
「申し訳ないけど、帰ってもらったわよ」
本当にやらかしたのね……
しばらく、放心状態の私を置き去りにし、勝手知ったる志乃はシャワーを浴びて服を拝借して化粧品も勝手に使って身支度を整えていた。
「とりあえず、今度会ったら謝るのよ。じゃあ、私、行くから…」
玄関ドアの閉まる音が響き、1人残された私はやっと思考が動きだした。
ウワッ、どうしよう…
なに?
会えなくなるのイヤって私が本当に言ったの?
あの人にしがみついたの?
想像しただけで…赤面して叫び声をあげていた。
「あーーー、バカバカ。私のバカ」
覚えてない事に苛立つのか、そんな可愛らしい事を言ってしまった自分に苛立つのか、醜態を見せてしまった事に苛立つのか…突然、部屋の中を掃除しだし夢中になって昨日のことをなかった事にしたかった。