優しい嘘はいらない
玄関の呼び鈴が鳴る。
はーいと返事をして出ると、朝とは打って変わって不機嫌な志乃がいた。
「どうしたの?」
反応もないまま、ズカズカと私を押しのけて奥へと入っていってしまう。
ドアを閉め、後を追うと冷蔵庫から冷えたビールを開けゴクゴクと飲んでいた。
一気に飲み終えふっ〜と息を吐く志乃は口を手の甲で拭い、ひとまず落ち着いたのかソファにドサっと座った。
訳がわからないまま、冷蔵庫から数本のビールを取り出しテーブルの上に…
そして、人間をダメにするクッションに腰を落とした私。
ドンと突然テーブルを叩きつける志乃は、怒りが溢れてきているのか目つきが鋭く、声をかけずらい。
しばらくして…
「聞いて…」
うん、聞くよと身を乗り出した。
志乃の話では、私と五十嵐さんが帰ってしまいチャンスだと喜んでいたらしい。
楽しく会話も弾み、お酒もまわり、ほろ酔いの志乃はわざと佐藤さんの肩にもたれ気を引こうとした。
そして、余裕顏の佐藤さんは志乃の肩を抱き寄せ耳元で囁いた。
『誘惑してる?』
それは、とても甘美な囁きだったらしく
、コクンと頷いた志乃の頭部に軽くキスをして会計を済ませていた。