優しい嘘はいらない

2人は、私に視線を向けにこやかに手を振りだす。

嘘…なんなの?

頬を引きつりながら笑みを浮かべ顔だけを動かしおじきをすると、志乃と彼の友達がこちらに向かって歩いてきた。

その様子を見ていた彼は、チラッと私を見て右の口角をあげ、笑ったような気がしたのは気のせいなのだろうか?

志乃がボックス席に戻ってきて、彼の友達はカウンター席にいる彼と話し始めている。

「志乃…あれなんなの?」

あれとは、私に手をふってきた事を言っているつもり。

「なんなのって…行動に出ないあんたの為にひと肌脱いであげたのよ。それに、彼、私のタイプなのよね」

うふふと笑う志乃はこちらを見ている彼らに手を振りだす。

その手を掴み動きを止めて志乃に小さな声で耳打ちした。

「何したの?」

「ちょっとトイレの前で偶然を装ってぶつかってみただけ……」

「それで?」

「……君たちも2人だよねって確認してくるから、はいって答えただけよ。お店に入った時から私達のこと気になってたっていうのよ。そう言われたら一緒に飲みませんかって聞くしかないじゃない」

テヘッって舌を少し出して悪びれる様子もない志乃に言葉が出てこなかった。
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