優しい嘘はいらない
「杏奈、大丈夫?あまりお酒強くないんだから辞めときなよ」
志乃の忠告を無視して、グラスに口をつけた時、隣から再び甘ったるい口調の声が聞こえてきた。
「ショックです…五十嵐さんの彼女ってどんな人なんですか?」
「俺も聞きたいです…五十嵐さんの彼女に会った事ないんで教えてくださいよ」
五十嵐さんの彼女に興味津々な後輩らしき男性が会話に混ざっていた。
「聞いてどうするんだ?」
面倒くさそうに声のトーンが下がる五十嵐さん。
あぁ…この感じ女の子達に毒吐く前の五十嵐さんだ。
「私、五十嵐さんの彼女に立候補したいんです」
おい、そこのバカ女
今しがた、彼女いる宣言した男に立候補するなんて、なんて強者だ。
尊敬するよ。
呆れるようにため息をつく五十嵐さんとなぜか興奮している後輩男性の声が重なる。
「…立候補‥ね⁈」
半分背中を向けていたはずの私の視線は、気づけば隣の席の五十嵐さんに向いていた。
こちらを妖しい笑みで見た彼と視線が合った時、頬を染め思わず視線を逸らしてしまう。
「私、その彼女さんに勝てる要素を知りたいんです」
ウワッ、強気。
そりゃそうか…男受けしそうなかわいい顔をしてらっしゃる。