優しい嘘はいらない
自分に自信があるんだろうね。
心の中でぼやきながら会話の流れに聞き耳をたてている。
「勝てる要素?…ないよ」
バッサリと切り捨てる五十嵐さんは、昔と変わらず健在。
あまりの冷たさに、まるで自分が言われたかのように身ぶるいしてしまう。
「どんな人なのか教えてください。どんな女性なのか聞いて諦めるか諦めないか決めるのは私自身です」
酔っているのか、五十嵐さんの冷たさに気づいてない彼女は、駄々っ子のように諦めが悪い。
「…わかったよ」
「待ってました…出会いからお願いします…」
調子よく合いの手をいれる後輩男性をきっと五十嵐さんは睨んだのだろう。
語尾が小さくしぼんで行く様子に思わず笑いが漏れていた。
「杏奈ちゃん、俺の話面白かった?まさか、もう酔っちゃった?」
事情の知らない男性は、急に笑う私に戸惑いながらもなぜか嬉しそう。
ううんと首を横に振りながら、耳は隣の会話に夢中。
「……俺のダチがバーでナンパした相手のツレが彼女で、何年かぶりに再会しても俺は覚えていたんだが、向こうは俺のこと覚えてない様子にイラっときて、つい、意地の悪いこと言ってしまった」
「先輩も恋する男なんですね」