優しい嘘はいらない

冷やかしをいれる後輩男性のせいで、絶対零度の冷気がこちらまで漂ってきて悪寒が背筋を走るのに、平気な彼のハート強さに拍手をしてあげたい。

「それで?」

「大人しい顔をしている癖に俺に向かって楯突いてくる女なんてなかなかいなくて新鮮だったんだ。なんて言うかつい構いたくなる女なんて初めてだった」

「えー、それなら私も楯突きます」

無視されても物怖じしない彼女にも拍手を送りたい。

「ツンケンしてる癖に酔うと甘えたでかわいいんだよ。『もう、会えなくなるのヤダ』って駄々こねたと思ったら、おやすみって俺を放置して寝る女初めてでさ…忘れられない」

ブッ…

吹き出しそうになる口元を押さえ、志乃と視線を合わせる。

まさかのまさか?

志乃は憎らしいぐらい楽しそうにニヤついている。

これは完全に私の話じゃないのか?…

恐る恐る五十嵐さんに視線を向けると口元に笑みを携え微笑んだ彼と視線が重なる。

なんとも言えない意地悪そうな表情が、確信に変わった瞬間だった。

そう言うことね⁈
偶然居合わせた私を見て、彼女をあしらうつもりで思いついたのが私との出会い話ってことか。それでもって私もからかって楽しんでいるってことか…
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