優しい嘘はいらない
お生憎様…
そんなことで怒りませんからと心の中で舌を出してやる。
「それからどうやって付き合うことになったんすか?」
「偶然会う機会が何度かあったんだが、その度に俺を嫌いって言いながらも目がスキスキって見つめてきて、まるで猫みたいで可愛くてさ…なかなか認めないから、俺は好きだって言い続けて手を繋いだり、肩を抱いたりして諦めなかった俺の努力の賜物なんだが…まぁ、捕まえたと思ってもすぐ、俺から逃げようとするし、今日あたり男と酒でも呑んでいるんじゃないかと心配なんだよね」
「ウワッ、先輩を振り回す彼女さんに会いたいです」
「小悪魔」
志乃は訳知り顔でつぶやき笑うけど、後半部分は私の訳ないじゃん。
好きだけどさ…
とにかく、今の話は私じゃない。
五十嵐さんの作り話か、本物の彼女さんとのことだよと言い聞かせて、なぜか、私は傷ついている。
私は、トイレと言って席を立つと隣からもトイレ行ってくるわと声が聞こえた。
トイレ前で人気がないことを確認して、私の背後を歩く人物に振り向いた。
「五十嵐さん、さっき同僚の方との会話聞こえていたんですけど、私の醜態バラさないでください」
「なんのことだ?」