優しい嘘はいらない
「はあっ?」
何言ってるんだって顔してますけど…このモヤっとした感情は、他にいいようがないんだから仕方ないじゃない。
叫ぶように言い逃げして背を向け歩き出した私の腕を素早く掴み、彼は離してくれない。
「納得いくように説明してほしいんだけど…」
私の前に立つ男から向けられる斜め上から鋭く光る瞳に、硬直していく私の体。
私だって、自分自身に説明してほしいぐらいよ。
この、モヤッとする感情がなんなのか知りたい。
「兎に角、彼女さんとの思い出話を教えたくないからって、私の醜態をむやみに誰構わず話さないでください」
ふーんと顎に手をかけ少し考える男の手が緩み、掴まれた腕を引っ張るが、今度はぎゅっと手のひらを掴まれてしまった。
まるで、手を繋いでいるみたいと頬が赤くなっていく。
「さっきから醜態って言ってるけどさ、どこが醜態なんだ?俺はかわいいと思ったけど…」
ニヤッと笑う五十嵐さんは意地悪だ。
私の反応を見て楽しんでいる。
頬どころか、顔中真っ赤になっているに違いない。
好きな人からかわいいって言われて、嫌なわけがない。
「……あれのどこが…」
クイッと手を引っ張る男の腕の中にとらわれて身動きできなくなる。