優しい嘘はいらない
覗き込むように顔を近づけ、屈託なく笑っている彼の表情は先ほどとは違い怒っているように見えない。
「なんて顔してんだ⁈」
だって…
身長の大きな彼を見つめ返した。
ほんの数秒だと思うがお互い視線を外せないまま見つめ合う時間に、甘い雰囲気を感じたのは私だけなのだろうか?
「……センパイ⁈」
どこから見ていたのかわからない五十嵐さんの後輩男性の声で、気まずそうにお互い目をそらす。
「なんだ?」
不機嫌そうな声で答える五十嵐さんがなんだか可笑しくてクスッと笑ってしまった。
そんな私に睨みをきかせ、デコピンしてくる指が嬉しかったりして頬が緩む。
「あの…邪魔してすみません。遅いんで呼びにきたんですけど…彼女さんと帰られますか?」
「はあっ?彼女?」
私と後輩男性を交互に見て、1人納得して「あぁ…そう言うことか」とつぶやく彼は、なにやら企んだ顔つきをし始めた。
急に私の肩を抱き寄せ耳元で囁く人。
『おれにあわせてろ』
「…見つかったなら仕方ないな…他の奴に隣の席に俺の女がいたなんて言うなよ」
…えっ、俺の女?って私⁈
「言いません。俺だけ五十嵐さんの彼女を知ってるなんてこんな美味しい話言う訳ないじゃないですか?」