優しい嘘はいらない
イヤイヤ…
その顔は言う気満々でしょうとツッコミたくなる。
その前に、いつから私があなたの彼女に?
彼女の代わりに仕立てないでよ。
五十嵐さんを睨んでやると
「拗ねるなって…俺にはお前だけだってさっきから言ってるだろう」
本当の彼女に語りかけるような甘い声と愛しむような甘い眼差しに勘違いしそうになり、これは演技なのだと何度も自分に言い聞かせても、真っ赤になった顔は元に戻らない。
「…やめてよ」
複雑な気持ちで演技できないと拒絶の意味を込めて肩を抱き寄せる腕から逃げようともがくのに、離してくれず更にぎゅっと抱き寄せて頭部にキスをしてくる。
ゆでダコのように真っ赤かな顔をしながら、羞恥で五十嵐さんの腕の中で暴れる私。
「こいつの機嫌なおしてから戻るから…」
彼の言葉と私の態度に状況を理解した後輩男性は、何度も首を縦に振り頷き、珍しい光景を見たようなウキウキした表情を見せて戻っていった。
まわりに誰もいなくなったことを確認した彼は、パッと肩を抱き寄せていた腕を離してしまう。
肩にあった温もりが冷えていくとともに、心も顔の熱も冷えていく。
「あれはなんなんの?」