優しい嘘はいらない
「なんとなく…」
いたずらが成功したかのような楽しげな表情をする五十嵐さんのお腹に一発パンチをお見舞いした。
「私を利用しないで…」
彼を置いて席に戻ったら、隣の席の後輩男性からのなんとも言えない視線にウンザリ…
違うからと否定してやろうとテーブルに手をついた時、彼もすぐに戻ってきた。
「五十嵐さん…遅かったですね」
甘ったるい声の後輩女性は、五十嵐さんの腕を取り擦り寄る。
それを見ていた後輩男性は、私の方をチラチラ見ながら慌てて余計な気を使っているのか、突然五十嵐さんに話を振りだす始末。
「…センパイ、彼女さん大丈夫でしたか?」
「えっ、彼女さん?」
敏感に反応する後輩女性。
「あぁ…ご機嫌は取れなかったよ」
肩を窄め、わざとらしく振舞う五十嵐さんに食いつく女性。
「それでなかなか戻って来なかったんですか?」
「そうなんだよ。俺が呼びにいくと電話しててさ…あんな表情をしたセンパイ初めて見たよ」
得意げな表情で意味深に微笑む男性は、五十嵐さんの代わりに嘘をつく。
「まったく、余計なことを…」
後輩男性に不機嫌そうに顔をしかめながらも彼の思惑通りに事が運んで楽しそうに見えるのは私だけのようだ。