優しい嘘はいらない
えっ…私を巻き込むつもり?
志乃の潤んだ瞳は、私にすがりついてくる。
「週末なら…『あ、俺…来週の週末になったから…あぁ…わかった。じゃあな』」
おい、私まだ話の途中ですが…
この男は…と、怒りに拳を握りしめていると、電話を終わらせた五十嵐さんが志乃に向いた。
「来週、8時にコンフォルトだってよ。必ず来いってさ」
コクンと頷く志乃の怒りはもうすでにおさまったようだった。
でも、私の怒りは、誰に向ければいいのかしら?
私を巻き込んだ志乃に?
私の返事を無視した五十嵐さんに?
私がモヤモヤしている間に志乃は先に行ってるねと私のカバンを取り上げ階段を上がって行く。
えっ、なに?
ちょ、ちょっと待って〜
追いかけようと五十嵐さんの横を通り過ぎようとすると肩を掴まれた。
「おい、お前はまだだ」
なんなんだ?
ぐいっと体を反転させられ五十嵐さんが目の前にいる。
突然、2人きりにさせられ心臓が激しくドキドキして、視線をどこに向けていいのかわからず、彷徨うように目がキョロキョロと動き落ち着きない。
手にはなにもなく手持ち無沙汰に服の裾を握りしめてしまう。
「携帯の番号を教えろ」