優しい嘘はいらない

電話番号教えろって…

予想もしていなかった事に何度もパチパチと瞼を閉じて驚いていた。

「……ほら、打ち込め」

なんの反応も示さない私に若干イラつき気味の五十嵐さんが、自分のスマホのキーパット画面を出して顎で指図する。

顎で指図するのって、この人の癖なんだろうなぁと新たに彼の癖を発見して喜ぶ自分がそこにいた。

「ふふふ…」

「なんだ?」

「なんでもない。打ち込めばいいんだよね」

私が笑った意味がわからない彼はちょっと不機嫌気味。

でも、番号を打ち込み終わりはいと差し出せばニッコリと笑った。

その変わりようにキュンときて、彼を凝視できない。

「じゃあな…」

そう言って私の頭にポンと置いた彼の手は、グシャグシャっと髪を撫で離れていくと、こそばゆい感じに頬が緩む。

彼はそんな私を見て、フッと口角をあげおでこを小突いてくる。

「なにするのよ」

言葉は不満気だが、口調はどこか照れ臭さを隠した感じに恥ずかしくなっていた。

「お前のおでこって小突きたくなるんだよ」

いつもの意地の悪い笑い。

この人のこの笑顔も好きなんだよね…って思っている時点で深みにはまっている。

やばいな…もう、ごまかせないや。
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