優しい嘘はいらない
じとーと見つめると
「まぁ、さっきまで落ちてた私が言っても説得力ないけどさ、どんな綺麗な女でも冷たくあしらってた人だよ。その人があんなにちょっかいかけて来るんだから杏奈のこと意識してると思うんだよね」
「……そうだといいなぁ」
ちょっと落ちていた気持ちが浮上してきた私は、靴を脱いで数歩歩いたらリビング兼寝室になる部屋へ。テーブルの上に無造作に置かれたビニール袋の中から缶ビールを取り出し、プシュっとプルタブを開けた。
「よし、お互いの恋愛が成就することを願って乾杯だ」
「そうだね…乾杯しよう」
私達は、お互い不安な気持ちを振り払うように話題を変えて飲み始めた。
志乃は、五十嵐さん経由とはいえ、急に呼び出された訳がなんなのか不安を押し隠し…私は、彼にまた会えるかどうかわからない不安を押し隠し、どうでもいい内容の会話に無理して盛り上がっていった。
1週間なんて、何もなければこんなに長く感じる事はないのに、この1週間は1日1日がとても長く感じた1週間だった。
それは、志乃もだったようで…
「この1週間、時間が経つのが長く感じるし、昨日の夜なんて、なかなか寝つけなかった」