優しい嘘はいらない
睨みつけてすぐに鞄を掴んだのに、その鞄は五十嵐さんの取り上げられてしまう。
「お前は、俺といるとすぐに帰るっていうんだな⁈」
「私をガキ扱いして怒らせるからでしょう」
「フッ、お前といるとついからかいたくなるんだから仕方ないだろう」
私の頭部に手を置き、ワシャワシャと髪を乱して頭を揺らされ、また子供扱いされたと落ち込む。
「からかいたくなるって何?私はあなたのオモチャじゃないわよ」
「そんなふうに思ってない。兎に角おちつけ」
ケンカ越しの私と違い、至って冷静な口調の彼に怒りが増す。
「落ちついてるわよ」
「まったく、俺のキャラじゃないんだが…」
そう言って、私をなだめるように
「ガキ扱いして悪かった。頼むから機嫌なおしてくれ」
私の手の甲を上から優しくぎゅっと握り、甘く響くテノールボイスを耳元で囁いてきた。
体中にゾクッとした甘い痺れがはしる。
ウワッ
卑怯者。
自分の声が武器になるってわかってやってるに違いない。
その声に囁かれ何人の女の人が堕ちたんだろう?
「杏奈ちゃん、許してやってよ。君がかわいくて仕方ないんだ。からかうのもこいつなりの愛情表現なんだ」