優しい嘘はいらない
五十嵐さんに尖った唇を指先で挟まれて、唇が熱を持ったように熱くなる。
やだ…この感覚なんなの?
その熱から逃げたくて、唇を挟む指を払いのけ睨んでやる。
「本当…お前って…」
そう言いながら、私に振り払われた手で頭部を撫でる手は優しくてそのまま大人しくなっていた。
なんとなく、この雰囲気から抜け出したくて
「そういえば、佐藤さん達、何飲みます?」
「あぁ…そうだった。楽しかったからドリンクを頼むのも忘れてた」
そう言って、腕時計を確認する佐藤さんは、五十嵐さんに目配せをした。
「店変えるか?」
「そうだね…ここは賑やかだから…俺的にはもう少し落ち着いたお店でダーツでもしながら飲みたい気分」
「ダーツ?」
「そう、志乃はやったことある?」
志乃の後頭部を撫で見つめ合う2人。
ううんと首を横にふる志乃は、急にまた甘くなる佐藤さんに顔を赤らめていた。
「やってみると楽しいよ。よし、移動しよう」
心配していたけど志乃と佐藤さんは良い雰囲気だし、後は2人で話合えばいい問題で私がいなくても大丈夫そう。
このまま帰ってもいいよね。
そう思いながら、お店を出るみんなの後に続いた。