優しい嘘はいらない
当たり前のように、志乃の肩を抱き寄せくっついて歩き出す2人の背に声をかけようとしたら、なぜか隣の男に手を繋がれてしまう。
えっ…
わけがわからず、ボー然とその手を見つめた。
ぎゅっと力が加わる。
「…お前、帰ろうとしただろう」
はい…
心で返事をしたのに顔に出ていたようで
「やっぱりか‥あいつらを俺に押しつけるつもりだったな」
イヤイヤ
嫌ならあなたも帰ればどうですか?
「それより、この手をなんとかしてください」
私は、繋がれた手を持ち上げてみせた。
恋人でもないのにこんな風に手を繋がれたら恥ずかしすぎて平静でいられない。
早く、手を離して…
「いや、無理」
無理だと…
それならと、手を引き抜こうともがいてみるけど男の力には敵わない。
「諦めてつきあえ」
そう言って繋いだ手を引っ張り歩き始めた。
一向に手を離す気がない五十嵐さんの顔を伺うが、表情は読めない。
彼にとってどうってことのない意味のない事かもしれないけど、私には夢のような出来事で、離してほしいと思いながらもこのまま時間が止まればいいのにと願ってしまう。
でも、時間が止まるはずもなく目的地に辿り着いたら手の温もりが消えていた。