優しい嘘はいらない
そんな私の背を押して、志乃達のいるハイテーブルまで無言で誘導する五十嵐さん。
仕方なく諦めて、志乃達と合流するとお互いの腰に手を回しぴったりとくっついて寄り添う2人を目の前にして、お邪魔ではないのかと思ってしまう。
私と五十嵐さんの触れそうで触れない距離は、私達2人の関係を意味していて、目の前にいるカップルとの差を感じ虚しくなっていき、志乃が羨ましくてたまらない。
頼んでいたドリンクが運ばれてきて、志乃と私の前には甘めのカクテル、もちろんアルコール度数は低め…五十嵐さん達はウイスキーのロックが置かれた。
佐藤さんがグラスをとり、志乃の耳元で何かを囁き、彼女のグラスにカチンと音を鳴らし微笑んでいる。
佐藤さんを見つめ真っ赤になり、恥じらうように俯く志乃。
そんな志乃の頭部にくちづける佐藤さんに、こちらも赤面してくる。
何を囁いたのか知らないけど…恋愛経験の乏しい私には刺激が強かった。
「ガキの前でイチャつくな」
ポンと私の頭部に手を乗せた五十嵐さんが佐藤さんに呆れた声をだした。
「ガキって私のことかしら?」
腹がたつが、こう何度もガキ扱いされると免疫がついてきたらしく笑顔でたずねる術を身につけたようだ。