優しい嘘はいらない

「おっ、恭平…勝負しようぜ」

知り合いの男性が彼を見つけ、ビリヤードに誘う。

私を見て親指だけをたて、こいつがいるから断ろうとしていた。

「しておいでよ」

「ほら、彼女もいいって言ってるし一回だけでいいから頼むよ」

それでも渋るから

「五十嵐さんのビリヤードをしてる姿みたいかも…」

「……ちゃんと見てろよ」

笑みを浮かべ人差し指を私に指して命令する。

私は、重い空気に耐えられなくて彼を体良く追い払いたかっただけなのに、脱いだスーツの上着を手渡されただけで、気持ちが高揚していた。

なんだろう?
嬉しくてたまらない。

彼のスーツの上着をぎゅっと抱きしめると彼のタバコの香りが…

この匂い、好き…

匂いを吸い込んで、彼の香りを堪能する。

ビリヤードの玉が勢いよく当たる音に我に返った。

ウワッ、私ったら何してるんだろう。上着をハイテーブルの上に置いて、熱くなった頬を両手で押さえ熱が冷めるのを待った。

その間に、ゲームは流れていく。

ただ、玉を順番に打ち、穴に入れるだけのゲームだと思っていたが意外と難しそう…

彼は、ミスをして顔をしかめた。

「ポケットからタバコ取ってくれ」
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