優しい嘘はいらない
打つ順番を待っている間、彼は手持ちぶたさに負けてタバコを取りにきた。
自分で取ればいいのにと口を尖らせながら、ポケットの中を漁る。
内心は、些細な頼み事に嬉しくてたまらない。
こんなことで嬉しいなんて…私って単純
見つけたタバコをはいっと渡した。
「サンキュー」
そう言って口角を上げ笑うと頭を撫でていく。
撫でられた頭を押さえ、頬が緩んで笑いが止まらない。
サンキューだって…うふふ
そんな私を見て、タバコを咥えた五十嵐さんの口元に笑みがこぼれていたなんて気づいていなかった。
しばらくして五十嵐さんの番がまわってきたらしく、キューを握って玉を打つ姿に見惚れていると、対戦相手の男性が私の隣に立ち
「君ってかわいいね」
なぜか小馬鹿にしたように笑うので自分でもわかるぐらいムッとした。
その瞬間、急に強く打つ玉の音に反応して五十嵐さんを見たら、連続で玉を落としていく姿だった。
思わず小さく拍手。
その時、
「ねぇ、君たちってつきあってないよね」
とっさのことに思わず正直に答えてしまった。
「ただの知り合いです」
「へぇ〜、ただの知り合いね。ただの知り合いにあんな顔するかな?フフッ、試してみる?」