優しい嘘はいらない
気温が下がって肌寒い。
寒…
肩を窄め、身ぶるい。
帰ろう…
家に向かって歩き出した。
脳裏に浮かぶキスシーン
あっ、志乃に帰るって連絡しなくっちゃ…そう思い出し鞄からスマホを取り出すと、突然、ブルブルと振動するスマホの画面に表示されたのは五十嵐さん。
切れるのを待っててもなかなか切れない。
なんでよ…
思わず、こちらから切ってしまう。
そして、志乃に連絡しようと文を打ち込んでいると、また振動するスマホ。
もう…
「なんですか?」
連絡先を教えてからはじめての電話だけど、今は嬉しくない。
『どこにいる?』
「どこだっていいでしょう。五十嵐さんはビリヤード楽しんでください」
その時、電話の向こうからと私の耳に聞こえたサイレンの音が少しだけズレて聞こえた。
『今のサイレン、割と近くだな』
そう言った彼に聞かせるように救急車から声が聞こえる。
それはスクランブル交差点を通過して行く際、注意を促す言葉で私は交差点の手前で立ち止まっていた。
彼が近くにいるのだと察し、彼を探した。
だけど、それは会いたいからじゃない。
大勢の人が行き交う中、そうそう見つけれないと判断した時、背後から肩を掴まれた。