優しい嘘はいらない

「…すみません」

「まったく、お前がいなくなって焦った」

「あっ、…お金払わずに出てきてしまったから、追いかけて来たんですね。お金払います」

鞄から財布を出そうとして止められる。

「そんなことで追いかけて来たんじゃないってわからないか?」

意味深な言葉にドキドキする。

だけど、期待してがっかりするのは目に見えているから、わからないと首を横に振った。

どうせ、ガキ扱いして一人歩きは心配だからとでも言うんでしょう⁈

「酔ったお前を1人で帰せないだろう」

ほら…やっぱりそんな理由だった。

「私との第一印象が酔っぱらいだから仕方ないですが、普段はちゃんとセーブして飲んでるので1人で帰れました」

自分で言って虚しくなる。

どうして、素直に喜べないんだろう。

「そんなんじゃないってどう言えばわかるんだよ」

言葉尻は小さくなって、苛立つように頭をかきむしっていた。

しばらくしてタクシーが目的地付近に着くらしく、運転手さんがどこまで行けばいいのか尋ねてきた。

「そこを『左に曲がったらすぐのマンションです』」

私の言葉を遮り、先に目的地を言った彼は支払いを済ませ不敵に呟いた。

「お前も降りるんだ」
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