優しい嘘はいらない
降りますよ…降りればいいんでしょう。
命令調に不満顔でタクシーから降りると、すぐにタクシーがいってしまいマンションを見あげるといつも自分の部屋から見えているマンションだった。
ここが、五十嵐さんの今住んでるところなんだ…
割と近いことに嬉しくて、さっきまでの不満も笑みに変わっていた。
「本当、お前ってコロコロ表情が変わって飽きないわ」
口元に笑みを浮かべ微笑みながら、繋いでいた手を引き寄せて抱きしめてきて…2度も抱きしめられると、自分の心をごまかせない。
感違いじゃない…よね?
「…離して」
彼の気持ちを確かめるように胸に手を添えて距離をとってみた。
私にはこんな駆け引きしかできない。
大人の女ならもっと上手に駆け引きができるんだろう。
「……酔いが覚めたら送ってやるから、上がっていかないか?」
ありきたりの誘い文句なのに、顔をのぞいて囁く声は艶ぽく、表情は艶めかしくて、彼のことを好きな私は頷いてしまう。
本当に、ただ酔いを覚ます為に?
彼の考えが読めないまま、部屋のドアが開いていった。
このまま入っていいの?
突然、チキンな私が出てきてその場で足がすくんでしまう。