サヨナラも言わずに

彼女は黙り込んだ。


そして、そっと沢田の左手首を布団から出した。


手首には包帯が巻かれている。



「リストカット。私が帰ったときにはもう、危ない状態だった。焦って救急車を呼んだわ……なんとか一命をとりとめて、もう目を覚ましてもいいころなんだけど……まだ目を覚まさないの」


「……!」



なんでだよ……


ちゃんとお前に謝って、味方になってやろう、一番の理解者になろうって思ったのに……


なんでお前はサヨナラも言わずに俺の前から消えようとしたんだ……?



仕返しのつもりか?


だとしたらタチが悪すぎる。


頼むから、目を覚ましてくれ……




そして、とうとう二週間が経った。


今日から学校に再登校。



行きたくねぇ……


でも、行って高野がどうなったか確かめねぇと……



そして、沢田はいまだに目を覚ましていなかった。


とっくに覚ましてもいいのに、そんな気配は微塵もなかった。



そこまで、この世界に戻ってきたくないのか?



だったら、俺がお前の居場所を作って待っててやる。


だから、早く目を覚ませよ……



「黒瀬くん!」
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