サヨナラも言わずに
里穂さんは廊下の端で退屈そうに立っていた。
「沢田が目を覚ますかもしれません!」
「ウソ……だって、え?なんで……?」
里穂さんは廊下だというのに、周りの目を気にせず、戸惑う。
横を通っていく人たちがチラチラとこっちを見てくる。
ここは早く中に入るのが妥当だろう。
「里穂さん、とにかく中に入りましょう」
俺は里穂さんの背中を少し押しながら、病室に入った。
幸い、沢田はまだ起きてない。
「それで、旭くん……説明、してもらえる……?」
椅子に座り、落ち着いた里穂さんが聞いてきた。
「沢田は、相当“篠宮”に復讐したいようです。その証拠に、名前を出しただけで、指先が動きました。だから、篠宮についてのことを言っていけば、目を覚ますかもしれません」
「…………」
俺の言葉に、里穂さんは黙り込んだ。
「旭くん、ヒントをありがとう。でもね、それはできないかな」
「どうして……ですか?」
「だって、美琴にとって辛いことで起こさないといけないってことでしょ?親としてはそんなこと、できない。って、もう今さらだよね」
俺は首を横に降ることしかできなかった。