サヨナラも言わずに

すべて、里穂さんの言う通りだ。


いくら沢田に目を覚ましてほしいからといって、もっと考えるべきだった。



ホント、沢田のこととなると暴走するな……俺。



「旭くん、がんばろうね」



この言葉が、なにを意味するのかわからなかった。



ただうなずくだけでよかったのかもしれないが、俺はそんな無責任なことはしたくない。


きっと、また暴走する。



「美琴にとって、一番幸せなことで起こしてあげたい。これって、私のわがままかな……?」


「そんなこと、ないです」



だって それが一番いいことだから。


自分勝手な考えや行動より、何倍もマシだ。



「お、やってるかー?」


「弥生先輩!」


「よっ。これ、差し入れだ」



母さんは、下の売店で買ってきたであろうビニール袋を、見せてきた。



「それで?どうよ、美琴は」


「まだダメですね……」



里穂さんはそれを受取りながら、声色を暗くして答えた。



「なあ、これはどうだ?“篠宮旭が目の前にいるぞー”っての」
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